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2015年11月19日木曜日

ひきこもりフューチャーセッション庵-IORI-のこと(なりたちとか)

庵-IORI-というひきこもりクラスタの人たちに向けた対話の場を東京で始めて、気がつけば4年近くになる。

最近、ひきこもり関連の様々な場に出かけていくと、庵やそこから派生した「ひきこもり大学」というイベントの成り立ちについて聞かれることも多くなった。なので、興味を持ってくれた人が検索・参照してくれることを期待して、ここに経緯や動機を記しておきたい。ちょっと長くなるが詳しいほうがいいと思うので、お許しを。

庵は、2012年9月に始まった。

初回からずっと川初真吾さん(しんごにぃにぃ)という優しくて不思議な魅力を持ったのんべぇな男がディレクターを引き受けてくれているが、そもそもの言い出しっぺは、ジャーナリストの池上正樹さんと私だ。2011年頃から、ひきこもり界隈に、部外者として「対話の場」を持ち込みたいと考えていた。

具体的な手法を検討していたとき、折しも野村恭彦さんのプレジデントオンラインの連載「フューチャーセッションをつくる!」が始まったり、書籍「フューチャーセンターをつくろう」(プレジデント社)が出た。読んで、「ひきこもり」のような答えの出にくい社会的・構造的な課題に取り組むには、フューチャーセンター(のちにフューチャーセッションと呼ぶようになる)がよいのではないかと思うようになった。

野村さんは本の中で、テーマや課題の取り組みの中心となるのは知識や技術を持った専門家であるべき、というアカデミズムや有識者会議的な場でありがちな前提を、フューチャーセンターにおいては明確に否定していた。専門性が必要になることもあるだろうけれども、むしろ専門性にこだわらない多様な立場の人たちで集まり、皆が持つ知恵やアイデアを生かしながらさっさと手探りし始めてしまおう、そのアクションの過程でお互いに未来の関係者(ステイクホルダ)を見つけ出してしまおう、というものだった。私たちはその考え方が気に入ったのだ。

2012年に入ってすぐ、フューチャーセンターを体感するためのセッションに出かけたところ、ファシリテーションを学ぶ人たちと出会った。プロの方もいたが、多くはごく普通のサラリーマンの人たちだった。

私たちは、取り組みたいテーマは持っているがコミュニティ運営やファシリテーションを引き受けてくれる人を求めていた。その一方で、ファシリテーターたちは、自分が活躍できる場や、コミュニティづくりに関わるきっかけとなる話題や課題を探していた。私の勘違いかも知れないけれど、パズルの最初のピースがあったような感じだった。

そこにジョインしてくれたのが、当事者の家族という軸を持ち、自らも場作りを始めようとしていた川初さんだった。

なかでも、「フューチャーセンターというココロミを始めようと思って」という話に耳を傾けてくれたのは、神戸で長年ひきこもりのピアサポート団体「グローバルシップス神戸」を主宰する森下徹さんだった。6月にはお試しのセッションをやってくれた。そこに参加した人が京都でも開催してくれた。「ひきこもり」を主なテーマにしたフューチャーセッションは、関西の方が動きが早かったのだ。

ひきこもり界隈にいる人たちも、私たちが何か新しいことを始めようとしていることに、半信半疑ながらも興味を持ってくれたようだった。池上さんとつながりのあった当事者や支援者も集まってきた。

東京でも夏の間に、「準備会」と称してワークショップを何度かおこなってみると、当事者の声や夢や思いつきがたくさん共有された。ままならない状況に陥りつつ考え至った様々なこと、ひきこもったからこそ得られた視点は、時代を捉えていく上で重要なヒントに満ちていて、もっと聞いてみたくなるものばかり。私たちは、当事者のため、とするのではなく、みんなのための場を創ろうと考えた。「とにかく続ける」とだけ決めて、公式に「対話」を初めてみることにした。

蛇足だが、「ひきこもり大学」という、主に当事者が自ら講師役となって、伝えたい内容を講義を行うイベントも、最近引き合いが多くなってきた。私はひき大のスタッフではないが、このひき大自体も、フューチャーセッションの準備会から生まれた企画だ。
(リンク:ひきこもり大学

話を庵の成り立ちに戻す。

いよいよ実際に人を集めて実施してみようという段階になり、プロボノでファシリテーターとして関わってくれていた、あんどぅという端正な男子が、これから始まる対話の場の名前を<庵-IORI->と名付けてくれた(Innovative, Open, Rearize, Initiative)。

また、ディレクターとして庵の看板を背負ってくれることになった川初さんが、「ひきこもりが問題にならない社会を実現する」という素敵なコンセプトを打ち出してくれた。そういえば、最初は併せて「ひきこもり2.0」とかも唱えていたっけ(笑)。

そうして最初の庵が実施できたのが2012年9月。以来一度も欠くことなく隔月偶数月の第一日曜日に開催している。あっという間に毎回100人近くが集まってくれるイベントになった。

そのうち、イベントだけでなく、運営にも「手伝いたい」「関わりたい」と人が集まってきた。

コアメンバーの知人・友人のファシリテーター、当事者たち、「社会復帰に開けた精神保健福祉を実現させる」ことをテーマに活動しているインカレ団体 One's Life の学生たち。たくさん現れた。

イベントとしての庵の主なやり方は、グループトークだ。参加者が、あらかじめ6,7個用意されたテーブルテーマを選び、おのおの好きな距離感で過ごす。

着席して語り合ってもいいし、輪の端から黙って聞いているだけでもいい。途中で他のテーマを選び直すのも有りだ。着席しないままうろうろしていても、別の場所で時間を共有しているだけでも構わない。

ワークショップでもなく、居場所とも言い切れず、なんだかはっきりと表現しきれないところがいつも申し訳ないのだが、共感が多めなゆるいグループトークを通じて、色々な人や思いに出会う場所と言えるだろう。

庵のミーティングも、誰でも参加できる。1回のイベント開催ごとにミーティングは2度行っている。イベント前にはテーマ決め、後にはふりかえりをする。やり方やテーマ、運営スタッフとしての役割分担は、参加者やファシリテーターの意見を参考にしながら、ミーティングに参加してくれたみんなの意見で決めていく。庵が最もフューチャーセッションらしいと感じるのは、実はこのミーティングだ。

最近は、当事者もテーマのオーナーやファシリテーターとして活躍するようになった。企画書を書いてまで、語りあいたいテーマを持ち込んでくれる人もいる。

参加者と同じ目線で、優しい目配りのできる彼らの存在は、開催規模が大きくなってきた今の庵で、安心できる場作りを実現していく上で欠かせないようになってきている。

毎回、不安でいっぱいのまま庵に来てくれる初めての参加者が必ずいる。会場に入れないままだったり、振る舞い方がわからず挙動不審だったりぽつんとしている人もいる。そういう人にパッと駆け寄って、庵の案内をしてくれるのがかつて同じような思いで会場の入り口に立った当事者たちだ。

私は、様々なダイアログの場をウォッチするのが趣味だが、常連参加者が、初めて参加する人の心情を慮り、頼まれもしないうちに真っ先に案内役を買って出る、というようなコミュニティは珍しいのではないかと思う。

そうした彼らの気働きを見ていると、当事者って、フラットな場作りやファシリテーションにとても向いているのではないかと思えてくる。

庵などに出てきたことがきっかけで、本格的に動きだし地元に居場所を作ったり、イベントを企画したり、就職をしたり、プロジェクトを始めたりした人たちはずいぶん増えてきた。

本当に色々な人がいる。庵を上手に利用した人もいれば、アンチな何かを感じて去ったり、ひとつのきっかけとして独自の活動のこやしにした人もいる。

きっと、何かを変えたいという人が来れば、変わるためのヒントや人に出会える可能性のある場だろうし、ありのままでいたいという人であれば、居場所のようにも機能するのだろう。合わなければ庵はその人の踏み台にだってなる。

庵は、自助的な集まりや支援活動とは何か違うと面食らう参加者も少なくないようだ。

そうかもしれない。「ひきこもり」的な何かとは一見無縁そうにみえる人たちが中心的に関わっているし、当事者のためだけを目的としてもいないし、「課題の解決」をミッションともしていないから。

当事者が自助的に開いている集まりや、支援者や専門家が当事者のために作る場は、もうずっと以前から様々なものがある。そうした、濃い思いの取り組みがあちらこちらに存在してこそ、庵はプラットフォームや交差点として成り立つことができると思っている。

庵は、そこに出入りしている人たちによってどんどん変わっていく。

みんなそれぞれのやりたい範囲、こだわりに応じて、居てくれたり通り過ぎてくれればいい。参加の仕方・関わり方に「正解」はないと思っている。

NEWS ZEROも無事放送されたみたいだし、とりあえず、macのバッテリーが切れそうなこともあり、取り急ぎアップすることにする。

【ひきこもりフューチャーセッション庵-IORI-】
・主催:フューチャーセッション庵-IORI-
・公式ページ https://www.facebook.com/iorihiki/(登録なしで見られます)
・偶数月の第1日曜日に東京都内で開催
・参加費:原則なし。普段は、参加して下さった方の心づくしの寄付で運営しています
・お問い合わせ、ミーティングへの参加や見学のご希望は、hiki.iori[at]gmail.comまで([at]を@に置き換えてください)